2011 年 67 巻 4 号 p. I_181-I_190
社会基盤施設が供用期間にわたって要求性能を満足するように,適切な維持管理を行うことが改めて求められている.施設の維持管理計画は,施設が安全かつ円滑な利用等のために求められる要求性能を満足するとともに,利用上の制約や財政上の制約などの要因も加味したライフサイクルコスト(LCC)の抑制が図られるように立案されなければならない.しかしながら,LCC算出の際のパラメータは多岐に亘り,その多くは,基礎データの蓄積やその分析が十分進んでいないことから,様々な知見等を総合して得た経験値や仮定条件の下で設定されているのが現状である.そこで,本研究は,係留施設のLCC算出検討の際に考慮すべき主な諸事項がLCCの算出結果に及ぼす影響を定量的に把握することを目的とする.まず,LCCの算出結果に影響を与えると考えられる主要な因子を挙げ,それらの影響因子に着目しながら,モデル係留施設を対象とする維持補修シナリオを作成する.次に,各シナリオに対するLCCの算出結果の比較・検討を行い,取り上げた主要な因子の影響程度について定量的に考察する.その結果,構造諸元,遷移率,設計供用期間,シナリオ立案の基本方針のそれぞれがLCCへ与える影響についての定量的な知見を得た.また,対策を推奨する限界となる劣化度ポイント(DP)を新たに提案し,これに基づくシナリオの評価を行った.