2014 年 70 巻 4 号 p. I_105-I_116
東日本大震災においては,地元建設企業の尽力により道路啓開をはじめとする災害対応活動が迅速に行われた.しかし,近い将来発生が予想される首都圏直下地震や南海トラフ地震のような巨大災害が起きた場合に,このような速やかな対応が可能かどうか極めて憂慮される.
近年の公共投資の減少等により建設市場が縮小したことに加え,過当競争による利益率の低下により,優良な建設企業が生き残りにくくなってきた.特に地域の中小建設業の疲弊が著しく,災害時の対応力が低下している.最近の公共工事の増加で建設投資額は堅調に推移しているが,人手不足が深刻であり疲弊構造は改善していない.建設産業の疲弊が深刻化しているのは,他に例をみないわが国特有の入札契約制度と工事の価格決定構造が要因になっていると考えられる.
本研究では,わが国の建設産業の疲弊要因を分析し,入札契約制度の変遷を概観する.そして,近年様変わりした海外の公共調達制度との比較を通じて,健全な競争環境のもとで良質なインフラを適正価格で適時に整備・管理する観点から,予定価格制度の見直しや交渉手続きの導入などの入札契約制度の改革を行うとともに,社会システムの改変を進める必要性を指摘する.