2019 年 75 巻 7 号 p. III_225-III_235
本研究では,ヒドロキシラジカル(OH•)によるフェノールの酸化分解反応を対象として量子化学計算を行い実施し,ラジカル反応や求電子反応における酸化剤との反応点を調べた.異なる計算レベル(HF,B3LYP,M062X)で分子内電荷密度変化を表す福井指標を計算・比較した結果,フェノールへのOH•付加反応についてはB3LYP>M062X>HFの順で反応点の計算精度が高いことが明らかとなった.福井指標による反応点の推定は,フェノール中間体についても実験事実と一貫した結果が得られた.また,フェノール酸化分解反応に対して反応経路最適化計算による反応速度定数の算出も試みた.本研究では,フェノールがカテコール(もしくはハイドロキノン)までに変換される初期酸化過程を対象としたが,同手法を他の微量汚染物質等に適用することで理論的に反応点が推定でき,反応経路の解明に役立つ可能性がある.