2020 年 76 巻 1 号 p. 109-119
近代的技術が導入される明治以前に建設され現在も利用されている歴史的水利システムには,建設当時施された施設管理に対する細やかな工夫が散見される.それらの工夫を現代の技術へ導入することは,重要と考える.本研究では通潤用水を対象として,現地調査および文献調査から施設管理に対する技術的な工夫を明らかにした.通潤用水では,泥ぜん抜きの設置,水路トンネル形状の工夫,通潤橋の放水といった土砂管理の軽減を目的とした工夫が行われていた.また,放水工も水路区間に数多く設置されており,洪水時の施設の安全性に対して慎重に配慮されていた.これらの施設管理に対する細やかな工夫,管理しやすい場所を作りそこを選択的に管理することにより水利システム全体の機能を維持するという設計思想は,現在の技術へ重要な示唆を与える.