2021 年 77 巻 1 号 p. 1-4
奈良時代に編纂された『出雲国風土記』は,残存する風土記の中で唯一ほぼ完本であるばかりでなく,他の風土記にはない豊富な地理データ(測量データ)が記載されている.このうち水海については,佐太水海及び神門水海の周り(めぐり)の距離が示されている.周りとは,一般に周囲長と理解されるが,現地地形より推定される水海の周長よりかなり短い.本稿は,この不整合の理由を探求し,水海の周りとは航路長を示しているのではないかと推察した.水海の大きさを航路長で示すことは,旅程を把握する上での実用的な表現である.