抄録
イギリスでは1960年代後半に大規模な鉄道路線の見直しが実施された.その根拠となったのが,ビーチングレポートである.このレポートでは,当時大幅な赤字であったイギリスの鉄道の収支改善のために15の提言が行われるとともに,各線区の存廃を厳密に収支に基づき決定することが盛り込まれていた.このレポートに基づき,イギリスでは「ビーチングカット」と呼ばれる路線の廃止が断行されたが,計画は完遂することなく,今日に至っている.本稿では,当時鉄道の存廃がどのような基準で検討されたのかや,なぜ計画が完遂することがなかったのかを紹介するとともに,1980年代に定義された日本の(特定)地方交通線に関する議論や経緯などとも比較しながら,鉄道の存廃基準について考察してみたい.