日本計算工学会論文集
Online ISSN : 1347-8826
ISSN-L : 1344-9443
数値材料試験による異方性超弾性体のパラメータ同定
寺田 賢二郎犬飼 壮典濱名 康彰見寄 明男平山 紀夫
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2008 年 2008 巻 p. 20080024

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抄録

本論文は,周期的なミクロ構造(ユニットセル)を有する繊維強化複合材料について,そのマクロ材料モデルとして異方性超弾性構成則を仮定し,均質化法に基づく数値材料実験の適用により,そのミクロ構造の解析を通して仮定したマクロ構成則の材料パラメータを同定する手法を提案したものである.提案手法では,数値材料実験により数値データとして得られる応力とひずみテンソルのすべての成分を用いて最小二乗法を適用することから,本研究ではこれをテンソルベースのパラメータ同定手法と呼んでいる.本研究ではまず,均質化法に基づく数値材料試験の考え方と方法の概要を述べている.特に,外部節点を制御することでユニットセルの任意のマクロ変形·応力パターンに対応したミクロ構造解析の方法を概説している.次に,異方性超弾性体の構成則のパラメータ同定に際して行うべき数値材料試験ケース,すなわちミクロ解析の境界条件として与える独立なマクロ変形·応力の制御パターンを提示している.そして,各試験ケース,各ミクロ解析の荷重増分ステップで算出されるマクロ応力とマクロ変形を表すテンソル場の全成分の二乗誤差を最小にする材料パラメータ同定法を提案している.具体的には,ユニットセルの6つの独立な変形パターンに対応するマクロ変形·応力を負荷ケースとする数値材料試験を行い,各試験(すなわち,ミクロ解析)のケース,およびミクロ解析の各荷重増分ステップで算出されるマクロ第2PK応力テンソルとマクロ右Cauchy-Greeen変形テンソルの全成分の二乗誤差を最小にする材料パラメータ同定法を提案している.最後に,3種類の具体的なユニットセルモデルに対する数値計算例を通して,提案手法によればある程度の精度で既存の異方性超弾性構成則のパラメータを同定できることを例証する.この数値計算例では,ユニットセルモデルの種類によって数値材料試験と,採用したマクロ異方性超弾性構成則の応答との誤差の程度が異なる結果となっているが,提案手法は概ね良好な近似を与えるパラメータを同定しうることが示されている.また,このときの誤差の原因は,採用した構成則の関数形によると考えられ,より精度のよい異方性超弾性体の材料挙動を得るにはより適切な構成則の採用が必須であると結論付けている.この点については,より詳細に検証する必要があるが,現存する構成モデルをCAEの実務に適用する,あるいは更に一歩進んでマルチスケールCAEの枠組みへの展開を図る場合には,本研究で提案した手法は有用なツールと成りうるものと考察している.

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© 2008 The Japan Society For Computational Engineering and Science
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