日本計算工学会論文集
Online ISSN : 1347-8826
ISSN-L : 1344-9443
塗膜析出前の濁りと履歴依存性を考慮した電着塗装シミュレーション
志村 彩夏大西 有希天谷 賢治
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2017 年 2017 巻 p. 20170005

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抄録

本論文は電着塗装シミュレーションにおける塗膜析出前の濁りと塗膜析出開始時の電流密度による履歴依存性に着目した塗膜抵抗モデルおよび塗膜成長モデルを新たに提案するものである.
塗膜析出前の濁りは通電開始後に被塗装物付近で中和された塗料粒子が被塗装物に付着する少し前のものであり, 電着後の水洗時に洗い流されてしまい塗膜としては残らない. しかし, この濁りには電気抵抗が存在し, イオンの拡散を阻害する効果があると推察される. また, 同じ膜厚かつ同じ電流密度でも, 電着条件によって膜厚の成長速度に差が生じることが実験より判明しており, 膜厚と電流密度以外に適当な状態量が見当たらないことから析出効率が何らかの履歴依存性の影響を受けていることが推察される.
そこで本研究では, 新たに塗膜析出前の濁りの影響を加えた仮想膜厚を導入することで濁りの抵抗を考慮した新たな塗膜抵抗モデルを定めた. また, 一枚板電着における定電圧および定電流電着の各条件において膜厚成長速度に関する実験データの精査から, 塗膜析出開始時のカソード電流密度が小さい程その後の析出効率が大きくなることに着目し, 析出開始時のカソード電流密度によりモデルパラメータが変化する新たな塗膜成長モデルを定めた.
提案モデルを用いて一枚板電着実験を数値解析で再現し, 実験結果と比較することで提案手法の精度検証を行った. 行った実験は, 電圧制御 (CV) 電着と電流制御 (CC) 電着に加えて, それぞれスターラーにより一定の撹拌速度で撹拌した場合 (撹拌あり) と撹拌しない場合 (撹拌なし) の全4通りである. 電圧制御 (CV) 電着解析の結果, 新モデルにより電流時刻歴および膜厚時刻歴の予測精度が従来モデルよりも向上することを示した. また, 電流制御 (CC) 電着解析についても, 撹拌なし弱電流を除き高精度に予測できることを示した. 以上により, 新モデルの有効性を示した.

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© 2017 The Japan Society For Computational Engineering and Science
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