抄録
全身性強皮症は血管障害と皮膚および内臓諸臓器の線維化を特徴とする原因不明の膠原病で,その発症には免疫異常の関与が示唆されている.Am80は急性前骨髄球性白血病治療薬として承認されている合成レチノイドで,近年ループス腎炎や血管炎など各種膠原病に対する有用性が臨床試験や動物実験により示唆されている.今回我々はAm80が全身性強皮症の病態に及ぼす影響について,ブレオマイシン(BLM)誘発強皮症モデルマウスを用いて検討した.Am80はBLM刺激により誘導される真皮の肥厚およびI型コラーゲン蛋白の発現を有意に抑制した.また,病変部皮膚におけるI型コラーゲン遺伝子のmRNAの発現量を有意に抑制し,MMP1遺伝子のmRNAの発現量を有意に亢進させた.更に,Am80は病変部皮膚においてCTGF,TGF-β,ICAM-1,IL-17A,TNFα,IFNg,MCP-1遺伝子のmRNAの発現量を有意に抑制した.一方,培養強皮症皮膚線維芽細胞およびTGF-β刺激で活性化された培養正常ヒト皮膚線維芽細胞において,Am80はI型コラーゲン遺伝子の発現を有意に抑制し,MMP1遺伝子の発現を有意に亢進させた.以上の結果より,Am80は皮膚線維芽細胞に対する直接的作用と,各種成長因子,細胞接着因子,サイトカイン,ケモカインの発現調節を介した間接的作用により,皮膚において抗線維化作用を示すことが明らかとなった.