日本臨床免疫学会会誌
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Rising Star Symposium
Rising Star Symposium5 がんシグナル伝達分子阻害薬を用いた,がん微小環境の免疫抑制解除による,がん免疫療法の増強
谷口 智憲里見 良輔西尾 浩早川 妙香坪田 欣也河上 裕
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2016 年 39 巻 4 号 p. 313

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抄録

  抗PD-1抗体や抗CTLA-4抗体などの免疫チェックポイントを標的とした治療は,様々ながん種で長期生存を伴う臨床効果を認めたが,その奏功率は未だ数十%である.不応例では,抗腫瘍T細胞応答を減弱する様々な免疫抑制機構が存在しておりその改善法の開発が必要である.我々は,増殖などのがんの悪性形質に関与するシグナル伝達経路が,がん細胞,さらには免疫細胞でも免疫抑制誘導に関与しており,これを標的とする薬剤で,腫瘍の免疫環境を改善できる可能性を検証した.悪性黒色腫ではWnt/β-cateninシグナルの活性化,肺癌ではEGFR(上皮成長因子受容体)の活性化,卵巣明細胞腺癌(OCCC)ではSTAT-3やNF-κBの活性化により,免疫抑制性のサイトカインが産生され,免疫抑制環境が構築されており,各々のシグナルに対する特異的阻害薬で免疫抑制が解除できた.さらに,これらの阻害剤の中で,EGFR-TKI(チロシンキナーゼ阻害薬)は,樹状細胞などの免疫細胞にも直接作用し,抗腫瘍T細胞応答を増強させた.また,OCCCのIL6産生を阻害する薬剤を1600種の既存薬から探索したところ,STAT-3阻害活性を有する薬剤を数種同定したが,これらの薬剤も,樹状細胞や制御性T細胞への直接作用を有し,抗腫瘍T細胞応答増強に関与していた.以上より,がん細胞で活性化しているシグナル伝達経路は,がん微小環境の免疫抑制の根本的原因となっている可能性,および,これらのシグナルに対する特異的阻害薬を用いて免疫抑制を解除し,免疫チェックポイント阻害抗体などのがん免疫療法の治療効果を増強できる可能性が示唆された.

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© 2016 日本臨床免疫学会
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