日本臨床免疫学会会誌
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会長講演
会長講演 腸からヒト全身を繙く新しい時代へ
渡辺 守
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2017 年 40 巻 4 号 p. 253

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抄録

  1990年代後半のH. pylori感染/胃潰瘍・胃がん,2000年代後半のウイルス性肝炎/肝がんの時代を過ぎ,2010年代後半は「腸」の時代になると予想されている.腸の特殊性が解明されるに伴い,腸は最も外界に曝され,100兆個の腸内細菌と常に応答し,「単なる管」ではない事が明らかとされた.腸がヒト生体内最大のリンパ組織,末梢神経組織,微小血管系,ホルモン系を含有する事が示され,「第2の脳」と呼ばれる程複雑な組織であり,消化器のみならず全身を制御する事を示す研究が報告されている.炎症性腸疾患では,病態解明が直接的に治療に結びついた結果として生物製剤が登場し,治療の考え方を大きく変えた.これまでの免疫統御療法による炎症抑制に加えて,「粘膜治癒」即ち,潰瘍を修復する事が再燃を防ぐために重要であるという,劇的な治療目標の変化が起きたのである.我々は最近,画期的な大腸上皮幹細胞の体外培養技術確立に成功し,培養細胞は障害された腸管に移植可能である事を証明した.既に同様の技術を用いて,ヒト内視鏡で得る微小生検検体から大腸上皮細胞を培養する手法も確立しており,傷害腸管への自己細胞移植の技術基盤として,本来の組織に固有の幹細胞を増やし移植に利用する再生医療Adult Tissue Stem Cell Therapyにより,炎症性腸疾患の根治療法を目指す試みを開始した.また,我々の腸上皮幹細胞培養技術は,異なる個人から得る内視鏡検体から培養した細胞により,腸が持つ吸収,排泄,分化,ホルモン産生などの解析をし,腸疾患のみならず生活習慣病,老化などに対する新しい個別化診断・治療法へ応用できる可能性をもつ.腸に関する研究は,臨床医が特殊な内視鏡検体を手に入れる事により大きなアドバンテージを持って施行可能となった研究が多く,今後は腸からヒト全身を繙く新しい時代になる事を期待している.

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© 2017 日本臨床免疫学会
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