日本臨床免疫学会会誌
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教育セミナー
教育セミナー1 iPS細胞技術と遺伝子改変霊長類を用いた神経疾患病態解明と創薬研究
岡野 栄之
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2017 年 40 巻 4 号 p. 254

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抄録

  ヒトの精神・神経疾患の研究が困難である理由として,1.疾患モデルマウスが必ずしもヒトの病態を反映しない,2.ゲノムでの遺伝子変異と表現型の因果関係を証明することが難しいことがある,3.剖検脳の解析だけでは,疾患のonsetにおいてin vivoで何が起きているかを知ることが困難である,4.疾患感受性細胞(脳の細胞)へのaccessibilityが低い,5.病態の中核を構成する神経回路が,同定されていない事が多いなどの事が挙げられる.我々は,これらの点を克服するために,iPS細胞技術と遺伝子改変霊長類(マーモセット)を用いた解決を試みた.我々の共同研究グループは,ゲノム編集技術を用いて,世界に先駆けて目的の形質を示す霊長類のモデル動物の作製に成功した.本研究グループは2009年に小型で繁殖力の高い霊長類であるコモンマーモセットを用いて,世界初のトランスジェニックマーモセットの作製に成功し,以降パーキンソン病モデル動物の作出など,ヒト疾患モデル動物の開発・研究を大きく進展させてきたが,多くのヒト疾患モデルマウスが作製されてきた標的遺伝子ノックアウト技術はマーモセットを含む霊長類には適用できなかった.一方,近年開発されたゲノム編集技術により,様々な動物種で受精卵の遺伝子を直接改変できるようになり,本研究によって霊長類であるマーモセットでもゲノム編集を用いてヒト病態モデルの作成が可能である事を示した.

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© 2017 日本臨床免疫学会
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