抄録
ヒトゲノムシーケンスが解読され生命現象や疾患要因を理解するための概念・方法論が大きく変容し、トランスクリプトーム・プロテオーム等様々なレベルで、包括的な解析が進められつつある。プロテオーム解析はポストゲノムシーケンス研究の中核をなすが、これはタンパクが、ゲノムにコードされる生命情報の最終産物であり、その変動がダイナミックであるとともに、翻訳後修飾がDNA/RNAレベルでは検討し得ない事などによる。我々は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計 (MALDI MS) を蛋白発現プロファイル解析に応用し、組織或いは血清中において肺癌特異的な発現を示す蛋白を探索しつつある。既に、2000種類以上の異なるピークを検出し、統合的なバイオインフォマティクス解析により、予後良好・不良群間等で差異を示すピーク群を検出した。さらに、Peptide sequencingにより、それぞれのピークに対応する複数の蛋白を同定している。これらの成果は、MALDI MSを用いた微量試料からの直接蛋白発現プロファイル解析が可能であり、ヒト癌の分子病態解明のみならず、予防・診断・治療法へ応用可能な分子標的の同定にも有用である可能性を示すものである。