日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
原著
一回嚥下量の変化が嚥下時の舌骨運動に与える影響について
上田 菜美野原 幹司小谷 泰子阪井 丘芳
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2013 年 17 巻 1 号 p. 36-44

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抄録

【緒言】舌骨は嚥下において重要な因子のひとつであり,舌骨の移動距離が小さいと誤嚥のリスクが高いという報告がある.また,舌骨の挙上運動は短時間で行われるため,舌骨の運動速度の遅延が誤嚥に影響する可能性が指摘されている.本研究では,嚥下造影検査(以下VF)を用いて,健常成人において,一回嚥下量の変化が嚥下時の舌骨の移動距離と運動速度に与える影響について検討した.

【方法】健常成人21 名を対象とした.一回嚥下量は2.5,5,10,20 ml とし,VF は側方より30 フレーム/秒で撮影した.VF 画像はAVI に変換してPC に取り込み,二次元運動解析ソフトを用いて解析した.解析時の基準平面は耳珠(原点)と鼻翼を結ぶカンペル平面をX軸,X軸に垂直な直線をY軸とした.舌骨の測定点は舌骨の前下方点とした.安静時の舌骨の位置を基準とし,移動距離の最大値Max d,2 方向に分解したMax ud(上方),Max fd(前方)を測定した.また,挙上前進運動時の舌骨の運動速度の最大値Max v およびMax uv(上方),Max fv(前方)を測定した.

【結果】二元配置分散分析を行った結果,一回嚥下量とMax d,Max ud,Max fd については有意差を認めなかったが,一回嚥下量とMax v,Max uv,Max fv については有意差を認めた(p<0.01).多重比較検定(Tukey 法)を行った結果,Max v は,2.5,5.0,10 ml と20 ml および2.5 ml と10 ml の間で有意差を認めた(p<0.05).また,Max fv,Max uv については,ともに2.5,5.0,10 ml と20 ml の間で有意差を認めた(p<0.05).

【結論】嚥下時には舌骨の運動速度を調節することで,大きな嚥下量でも誤嚥せず嚥下している可能性が示唆された.今後,高齢者と比較・検討を行うことが必要と考えられた.

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© 2013 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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