日本透析医学会雑誌
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症例報告
顆粒リンパ球増多症を合併した長期血液透析患者の1例
栗山 哲上田 裕之菅野 直希大塚 泰史田尻 進星野 優谷山 大輔油田 さや子貞廣 威太郎加藤 尚彦細谷 龍男
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2009 年 42 巻 7 号 p. 521-528

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抄録

長期透析患者にはさまざまな合併症がみられ,その病像を複雑に修飾する.今回,われわれは,erythrocyte stimulating agent(ESA)抵抗性貧血を契機に診断された顆粒リンパ球増多症を経験した.症例は31歳から血液透析を開始した62歳女性で,既往歴に腎盂腎炎(24歳時),化膿性膝関節症と変形性股関節症(40歳時)などがある.59歳時,右腎癌が発見され腎摘出術を受けたが,1年後には胸膜転移と骨転移を認めた.60歳時,ESA抵抗性貧血が出現し,末梢血で顆粒リンパ球の増加を認めた.そのため骨髄穿刺を行い,リンパ球細胞表面マーカーを検査したところCD3+,CD8+,CD16+,CD56-であり,顆粒リンパ球増多症(成熟T細胞型)と診断した.顆粒リンパ球増多症に対しては,今回の入院に数か月先立ち,シクロスポリン(Cyclosporine, Neoral ® )の投与が開始となった.入院時の主訴は,発熱,全身倦怠感,胸水貯留,臀部褥瘡であった.入院後,顆粒リンパ球増多症に対してはシクロスポリンを継続し,随伴するESA抵抗性貧血に対しては頻回の赤血球輸血,感染症に対しては抗生物質,胸水に対してはドレナージなどの治療を行った.しかし,その後治療にもかかわらず病勢は緩徐に進行し,数か月の経過で敗血症から死の転帰をとった.長期透析患者において,高血圧,腎性貧血,骨ミネラル代謝異常などの腎不全に伴う合併症の治療は着実に進歩している.一方,長期存命によって悪性疾患が増加し患者生命予後を規定する重要な因子となっている.本症例では,腎癌に加えて顆粒リンパ球増多症と,二種の悪性腫瘍がみられた.顆粒リンパ球増多症は,白血病の一型であり,発現頻度は比較的まれで,予後良好とされる疾患であるが,本邦において透析患者の報告はみられない.本疾患は血液専門医のみではなく,腎臓医,透析医においても認識すべき疾患と考え報告する.

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© 2009 一般社団法人 日本透析医学会
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