2012 年 45 巻 9 号 p. 881-887
感染症は維持透析患者における頻度の高い死亡原因のひとつである.多剤耐性緑膿菌(multi-drug resistant Pseudomonas aeruginosa:MDRP)は有効な治療手段に乏しく,治療法の確立が急務とされている.今回われわれはBreak-point Checkerboard Plate(BCプレート)法を用いて抗菌薬の選択を行い良好な結果が得られた1例を経験したので報告する.症例は71歳,男性.20年来の糖尿病患者.入院半年前にS状結腸捻転症を発症し,当院で緊急手術(全結腸切除,回腸人工肛門造設術)を施行後に腎機能が増悪し,同入院中に血液透析を導入した.転院後原因不明の発熱を認め精査目的で再入院した.CT検査の結果後腹膜膿瘍と診断し,原因として手術時の縫合不全が疑われたため肛門より造影検査を施行し少量の直腸盲端と腹腔内との交通を確認した.長期にわたり各種抗菌薬ならびにドレナージを施行したが,発熱と炎症反応が遷延し,CTおよび培養検査によってMDRPによる直腸周囲炎と診断した.抗菌薬の感受性を調べるためBCプレート法を施行し,結果に従いアズトレオナム(AZM)とアミカマイシン(AMK)の併用と,さらにホスホマイシン(FOM)を加えた治療を選択したところ解熱と炎症反応の低下,およびMDRPの陰性化を認めた.MDRPは,さまざまな耐性機序を有するため単剤での治療は極めて困難であり抗菌薬の併用療法が必要である.一般的に腎不全患者は薬剤耐性菌による感染率が高く,本例のような栄養不良や長期抗菌薬投与例はさらに感染リスクが増大する.BCプレート法は8種類の抗菌薬のうちいずれか2種類を併用した際に,被検菌に対する薬剤感受性を判定できるとする検査である.本症例では,BCプレート法の結果に基づきAZM+AMKを選択した.また,緑膿菌に対する抗菌効果の増強を期待してFOMを併用した.BCプレート法を用いた抗菌薬の選択が治療効果に反映されたと考えられた.