日本透析医学会雑誌
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症例報告
自然妊娠経過中にうっ血性心不全を呈した長期血液透析患者の1例
小野 真也金崎 雅美一色 啓二吉田 尚平信田 裕吉林 護桑形 尚吾出路 奈緒子有村 徹朗宇津 貴
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2013 年 46 巻 10 号 p. 1021-1026

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抄録

症例は38歳の女性.IgA腎症による末期腎不全に対して16年前より近医で維持血液透析を行っていた.自然妊娠が判明し妊娠20週より当院入院管理となった.入院後1回4時間,週6日の血液透析を行い透析前血中尿素窒素(BUN)50 mg/dL以下に保った.目標体重(dry weight:DW)は,下大静脈径,ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド(hANP),羊水量を指標に,透析中の連続的ヘマトクリット測定(クリットライン®)による循環血液量の変化量(%BV)も参考として,妊娠経過に合わせて200~300 g/週の割合で上方修正した.妊娠28週頃よりhANP値の上昇を認め,DWの上方修正を100 g/週に減じていた.妊娠33週3日夜間に突然の呼吸困難が出現し,胸部X線写真にて心拡大と胸水貯留を,心臓超音波検査にてびまん性壁運動低下を認め,NYHA(New York Heart Association)IV度のうっ血性心不全と診断した.緊急帝王切開術を施行し生児を得た後,集中治療室で心不全治療を行い出産後24日で退院した.退院後DWを減量調整したが心機能は改善せず,血中異型プロラクチン(16 kDa)の存在とカテプシンD活性の上昇を認めたため,周産期心筋症と診断された.出産後2年以上が経過した現在も,駆出率25%と低下状態が遷延している.本症例は,慢性透析患者の妊娠管理において重要な知見を有する1例であると考えられる.

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© 2013 一般社団法人 日本透析医学会
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