抄録
目的: 重炭酸注入法の相違する4種類の供給装置を用いて, 透析液中のpH, ionized calcium (i-Ca++) を測定し, 重炭酸注入法の相違によるi-Ca++への影響を観察した. また, それぞれの供給装置によるbicarbonate透析液の安定性について検討した. 今回使用した4種の装置はいずれも透析液原液中に酸を添加し透析液の安定を図っているため, 実験に使用する透析液についての安定性を確認するため透析液の基礎的検討を始めに行った.
方法: 透析液の基礎的検討は市販されている2種のbicarbonate用透析液原液を精製水にて正確に稀釈し, 5 literのbicarbonate透析液を作製して行った. 検討項目はpH, i-Ca++の測定を経時的に行い, また, total Caを測定しCaのイオン化率についても検討した. pHとi-Ca++の関係についても検討を行った. なおアルカリ剤に酢酸を使用した透析液をcontrolとし, 同様の測定を行った.
重炭酸注入法の相違による透析液i-Ca++への影響については, 1) Batch system, 2) Mixing pump system, 3) Pulse infusate pump, 4) Roller infusate pumpの4種類の装置について行い, pH, i-Ca++, t-Ca, HCO3-, を経時的に測定し透析液作製に対する装置安定性を観察した. また, batch systemにてsodium bicarbonate注入濃度を4.4%, 7.0%について検討した.
結果: 透析液の基礎的検討では, controlに比しbicarbonate透析液ではpHが高く, 反対にi-Ca++は低かった. また, Caイオン化率も低かった. pHは時間経過と共に上昇し, i-Ca++は時間経過と共に下降する. pHとi-Ca++の間には負の相関関係が確認できた. 重炭酸注入法の違う4種の装置はpH変化, i-Ca++, HCO3-それぞれについて, 安定した供給法であることが確認できた. しかし, Caのイオン化率はbatch, roller infusionのsystemに比し, mixing pump, pulse pumpは低値を, pHは逆に高値を示した. sodium bicarbonate注入濃度では4.4%に比し7.0%ではCaのイオン化率は低値を, pHは高値を示した.
結語: 重炭酸を含む透析液は, アルカリ剤に酢酸を使用した透析液に比べpHは高くCaのイオン化率は低値を示す. 透析液に酸を添加しbicarbonate透析液の安定を図った透析液は, 透析液自体の安定性は確認できた. 重炭酸注入法で, batch, roller infusateの2種については, 注入条件のひとつである注入圧変化が少ないためpHは低くCaのイオン化率は高値であった. mixing pump, pulse pumpの2種は注入圧の変化に伴ってsodium bicarbonate中にCO2が放出されたり, 気泡が出現する可能性が考えられ, そのためpHは高く, Caのイオン化率は低値であると考えられた. sodium bicarbonate注入法の相違により, i-Ca++濃度は影響を受けることがわかった. i-Ca++は重炭酸透析液供給装置評価のパラメーターのひとつとしてpHと共に有用と思われる.