人工透析研究会会誌
Online ISSN : 1884-6203
Print ISSN : 0288-7045
ISSN-L : 0288-7045
慢性血液透析患者の手根管症侯群
合屋 忠信藤永 隆阿部 哲哉岩本 剛人佐々木 春彦黒木 健文内藤 正俊中村 定敏市丸 喜一郎
著者情報
ジャーナル フリー

1985 年 18 巻 3 号 p. 289-293

詳細
抄録

昭和58年11月から昭和59年6月の8ヵ月間に21名の慢性血液透析患者が, 手根管症侯群の治療を目的に済生会八幡病院を受診した. 患者は男10名女11名で, 平均年齢56.8歳 (36-77), 原疾患は全例原発性糸球体腎炎であった. 手根管症侯群の発症は両側に10名, 片側に11名と両側発症の率が高く, 透析導入から発症までの期間は107.2±34.1ヵ月で長期透析患者に多い. 自他覚所見にdistal motor latencyの測定を参考として診断したが, 罹患31手中疼痛は31手 (100%), 正中神経領域のしびれ31手 (100%), Phalen test陽性28手 (90.3%), 母指球筋の萎縮24手 (77.4%) にみられた. 測定した26患肢のdistal motor latencyは, 6例がabsent他の20例の平均は7.81±3.05msecで正常の約2倍に延長しており, また26例中25例が4.5msec以上であった. 内シャントの開存している上肢に22, 閉塞した上肢に6, 内シャント作成の無い上肢に3例の発症で, 内シャント作成は手根管症侯群の発症の一因となっている. しかし両側に発症する患者や長期透析者の発症が多いことから, 内シャント作成がもたらす血行動態の変化以外の病因の存在が推察される. 16例18手に手根管部の正中神経減圧術を行った. エスマルヒ駆血帯, tourniquet圧250mmHgを使用して無血下に手掌から手関節前面へのS字状切開で広い視野をとり横手根靱帯に到達し, 正中神経を圧迫絞扼する肥厚した同靱帯を2-4cm縦切し, 必要に応じて神経剥離術を追加した. 手術の数時間後より手の疼痛は全例消失した. 術後6-8週の所見を術前と比較すると, 手の疼痛夜間痛は全例消失, 二点識別覚には改善傾向がみられたが, 対象が進行した重症例が多いためか, 正中神経領域のしびれ, 母指球筋の萎縮, distal motor latencyの延長はいまだ改善されていなかった. 圧迫による正中神経の変性か不可逆的変化となる可能性もあり, 早期診断早期手術が好ましいと思われる.

著者関連情報
© 社団法人 日本透析医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top