人工透析研究会会誌
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急性肝炎発症とともに腎性貧血の改善をみた慢性血液透析患者の1例
宍戸 寛治高橋 健秋沢 忠男北岡 建樹越川 昭三
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1985 年 18 巻 3 号 p. 319-322

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抄録

急性肝炎の発症に伴い貧血の著明な改善を認めた慢性透析症例を経験したので, その臨床経過と貧血改善の機序について報告する.
症例は36歳の女性, 昭和55年に慢性糸球体腎炎による慢性腎不全と診断され, 昭和57年5月血液透析導入, 以後週3回の外来血液透析を施行されていた. 透析導入前より高度貧血があり, タンパク同化ホルモンやタンパク透過性血液濾過器 (Duo-flux) を用いた濾過透析法 (HDF) などを試みたがいずれも著明な効果はみられず, Ht 15-18%程度の貧血がつづいていた.
昭和58年11月の血液検査にてGOT 64, GPT 53KUとトランスアミナーゼ (Tr) の上昇がみられ, その後さらに上昇傾向を示したため, 精査・加療のため当科入院となった. 検査所見ではHBsAg(-), HBsAb(+), HA(IgM)Ab(-)であり, 他のウィルス抗体価の上昇もなく, 薬剤などの原因も考えにくく, さらに性器出血のため多量の輸血をした既往があることより輸血後のnonA, nonB hepatitisと診断した. Trは入院後も上昇したが, 発症後約4週をピーク (GOT 224, GPT 223KU) として低下傾向を示し, 8週後には正常化した. 一方, 貧血は肝炎発症とともに著明な改善を示し, 肝炎発症前のHt 16%からTr上昇のピークと一致してHt 30%まで上昇した. その後Trの正常化にやや遅れてHtは低下し, 肝炎発症後16週にはHt 21%まで低下した.
本症例における貧血の改善は, 経過からみて今回の肝障害と因果関係を有することが推定される. 肝障害ピーク時の血清エリスロポエチン (Ep) および網状赤血球数は高値を示し, Tr正常化後のEpは測定感度以下であった. この結果から本症例における貧血改善の機序を考察すると, 肝障害によりhepatic erythropoietic factor (HEF) が産生され, これにより肝におけるEp産生が増加し, erythropoiesisが亢進したと考えられた. またHEF抑制に働くrenal inhibitory factorや骨髄抑制作用を持つuremic toxinsのprotein permeable HDFによる除去効果が寄与因子として作用した可能性も示唆された.

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