1995 年 28 巻 3 号 p. 267-274
維持透析中に胸水で発症したTリンパ腫の1例を経験したので報告する. 症例は72歳女性, 導入後6年の維持透析患者である. 左胸水, 左鎖骨上から縦隔に広範なリンパ節の腫脹あり, リンパ節生検にて悪性リンパ腫 (リンパ芽球性Tリンパ腫, stage IV) と診断される. 化学療法にて胸水の減少, リンパ節の縮小をみたが, 全身状態の悪化により入院4か月後に死亡した. 維持透析患者では定期的に胸部X線写真を撮り, 胸水貯留のみつかることも稀ではないが, 本症例のような悪性リンパ腫による胸膜炎を合併した維持透析患者の報告はなく, 貴重な1例と考え報告した. また, 肝代謝の抗癌剤, G-CSF, erythropoietinなどの使用にても, 透析患者に対する化学療法は未だ困難であることを痛感させられる症例であった.