日本透析医学会雑誌
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血液透析患者に合併したカリニ肺炎およびganciclovir脳症の1例
横田 直人久永 修一藤元 昭一佐藤 祐二木下 浩石原 旅人麻生 和義江藤 胤尚
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1997 年 30 巻 9 号 p. 1129-1134

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抄録

症例は27歳, 女性. IgA腎症による慢性腎不全のため'94年12月に血液透析に導入となった. '94年7月から特発性血小板減少性紫斑病のためプレドニゾロン (PSL) の大量経口投与を受けていたが, 同薬減量中に血小板減少に伴う紫斑が出現し, 当科へ入院した. PSLを増量 (60mg/日) したが効果は持続せず, 6週間目より漸減を開始した. 9月中旬より38℃台の発熱, 乾性咳が出現した. 各種培養は陰性で抗生剤も無効であった. 胸写にて明らかな異常を認めなかったが, 軽度の低酸素血症があり, 胸部CTにて全肺野に不均一な間質性陰影を認めた. 気管支鏡下に採取されたBAL液よりPneumocystis cariniiの胞体を検出し, カリニ肺炎と診断した. 9月26日よりpentamidine 300mg/日の吸入とsulfamethoxazole-trimethoprim合剤2400mg/日の経口投与を開始し, さらに真菌とcytomegalovirusの混合感染を想定してfluconazole 50mg/日とganciclovir 100mg/隔日の経静脈投与を行った. カリニ肺炎の経過は良好であったが, 10月5日に突然強い嘔吐と両下肢の振戦および夜間不穏が出現した. ganciclovir中止後これらの症状は消失したためganciclovir脳症と考えた. 同薬の血中濃度を測定したが非透析日の半減期は著しく延長し, 投与53時間後も2.91μg/lの高濃度を維持していた. 文献的にganciclovirは血液脳関門を通過することが知られており, 同薬の脳内蓄積が脳症の原因と考えられた. カリニ肺炎は進行が早く致死的疾患であり, しばしば真菌やcytomegalovirusの混合感染が見られる. 本症例ではカリニ肺炎を早期診断し, 治癒しえた意義は大変大きいと思われる. しかし, ganciclovir脳症をきたし, 透析患者におけるganciclovirの投与方法の確立が望まれる.

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