日本透析医学会雑誌
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血液透析療法における院内感染防止対策の現況
秋葉 隆山崎 親雄秋澤 忠男佐藤 千史吉澤 浩司
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キーワード: 血液透析, 院内感染
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2000 年 33 巻 10 号 p. 1303-1312

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抄録

透析医療における感染の現況を把握し感染防止の実態の調査を行った. 郵送によるアンケート法により, 日常的に慢性血液透析を行っている本邦の医療施設2910施設を対象とした. アンケート回収は1681施設57.8%と良好だった. 回答率の偏りは, 私的施設の回答率 (44.8%) がその他の施設の回答率 (51.7%) より低かったが, 地域, 施設規模別では差がなく, おおむね偏りのない調査が行われた.
81.6%の施設が, 感染対策マニュアルを自施設で作成しており, 施設の74.5%に感染対策委員会が設置され, その3分の2の施設で感染対策委員会が毎月開かれているなど, 多くの施設で, 院内感染予防に対する積極的な対策が講じられていることが明らかにされた.
HBs抗原の測定率は施設の94.3%, 患者の97.1%の, HCV抗体測定率は施設の93.3%, 患者の98.9%と良好だった. 患者陽性率はHBs抗原で2.84%, HCV抗体では22.4%だった.
HBs抗原, HCV抗体施設陽性率は7地域間で異なり (p=0.00515, p<0.0001), 設立母体でも異なっていた (p<0.0001, p<0.0001). HBs抗原, HCV抗体施設陽性率は施設透析期間と相関を示した (p=0.00308, p<0.0001). HBs抗原施設陽性率とHCV抗体施設陽性率には弱い相関が認められた (r=.145, p<0.0001).
一方, HBワクチンは本邦施設の24.3%でしか実施されておらず, HBs抗原陽性患者の別室隔離は1.88%, ベッド固定でさえ59.0%の施設でしか実施されていなかった. HCV抗体陽性患者では別室隔離は0.674%, ベッド固定は43.2%で実施されていた. 薬物投与に用いた注射器の再使用 (2.06%), 返血で余った生理的食塩水を別の患者への使用 (0.908%), エリスロポエチンの同一アンプルの分割投与 (5.54%) などが報告された. HBs抗原陽性患者に対する日常生活の注意, HCV抗体陽性患者のベッド固定, HCV抗体陽性患者への告知, HCV抗体陽性患者に対する日常生活の注意を行っている施設のHCV抗体陽性率は低く, これらの診療行為を行うことで, HCV抗体陽性率を下げる可能性が示された.
本邦の血液透析施設では依然として血液透析患者のウイルス肝炎感染が高頻度にみられること, 院内感染予防のために一定の努力が行われていることが明らかとなった. 今後, 基本的な感染予防策実施を徹底と, 診療内容の危険度と予防措置の効果に関する前向き研究が必要である.

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