日本透析医学会雑誌
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片腎からのエリスロポエチン過剰分泌に伴う二次性多血症に対し腎摘が有効であった慢性維持透析患者の1例
林 春幸中島 一彰入江 康文鹿島 孝大竹 喜雄吉田 弘道伊藤 靖長谷川 律子神谷 直人奥田 邦雄
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2002 年 35 巻 4 号 p. 255-259

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抄録

症例は69歳女性. 1993年慢性糸球体腎炎のため維持透析導入となった. 2000年6月より, 赤血球数, ヘマトクリットが増加し始め, 多血症状態, 心不全状態となり, 10月23日入院した. 腎静脈血中エリスロポエチン濃度を測定したところ, 右腎静脈血が379mU/mLであり, 左腎静脈血179, 171 (2回測定) mU/mL, 末梢側大静脈血171mU/mLに比較し, 著明に高値であった. 右腎内エリスロポエチン産生腫瘍の存在を疑い, エコー, CT, MRI, ガリウムスキャンを行ったが腫瘍は認められなかった. ヘマトクリットが49.8%まで上昇した時点で200mLの瀉血を計4回行ったが心不全症状は改善されず, 左室駆出率は30.6%まで低下した. 11月16日全麻下に両側の腎摘を行った. 術直前の末梢血中エリスロポエチン濃度は253mU/mLであったが術後9.7mU/mLへと低下した. 心不全状態も徐々に改善され, 2001年6月における左室駆出率は77%と上昇した. 摘出腎は右31g, 左48gの萎縮腎であった. 摘出腎の組織より蛋白を抽出し, エリスロポエチン濃度を測定したところ, 左腎組織が117mU/gであったのに対し, 右腎組織は1020mU/gと高値であった. 組織診断では動脈の硬化性変化が高度であり, 腎実質は萎縮した尿細管とごくわずかの糸球体からなり, 腫瘍は存在していなかった. 抗エリスロポエチン抗体を用いた免疫染色を行ったところ, 染色陽性の尿細管が散在性に認められるのみで, 特殊なエリスロポエチン産生細胞は認められなかった. 本症例において, 右腎から多量のエリスロポエチンが産生分泌されていた原因は不明であり, これまで知られていない産生分泌機序が関与している可能性が考えられた.

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