日本透析医学会雑誌
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ヘパリン依存性血小板減少症による回路内凝血を繰り返した糖尿病性腎症血液透析患者の1例
井垣 直哉松田 友和矢谷 宏文川口 貴行木田 有利柳瀬 公彦森口 林太郎坂井 誠玉田 文彦後藤 武男
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2003 年 36 巻 8 号 p. 1337-1342

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抄録

ヘパリン起因性血小板減少症 (HIT) は本邦でも最近になって認知されるようになってきたが, 依然その認知度は低い. 今回われわれは, 糖尿病性腎症の透析患者の導入期に, 回路内凝血を繰り返したHITの1症例を経験したため報告する. 症例は69歳, 男性. 糖尿病性腎不全により, 平成13年12月3日血液透析導入となる. 血小板数はHD導入日19.8万/mm3であったが, HD導入後2週間目には9.7万/mm3と減少していた. ダイアライザー内凝血は著しく, 生食およびヘパリン加生食フラッシュで回路内を洗浄しHDを維持したが, ダイアライザー交換を頻回に要した. 透析膜変更やヘパリン増量, nafamostat mesilate (FUT) や低分子ヘパリンに抗凝固剤を変更するも回路内凝血は同様であった. 胃癌手術後血栓性静脈炎を併発した (FUT単独使用時). 抗PF4・ヘパリン抗体陽性であり, HITと診断した. 現在warfarin内服とFUT併用で回路内凝血なくHDを行っている. 血小板機能および血管内皮機能不全を持つ糖尿病性腎症による透析患者の増加は, 今後HIT患者の増加をもたらす可能性がある. ヘパリンを日常的に使用する透析医療従事者はHITという病態の認識をすべきであり, 早期発見および適切なる治療法の確立により, 致死的な血栓合併症を防止することが肝要である. HIT管理の基礎はあらゆる形態でのヘパリン投与の中止と代わりの抗凝固療法の開始である. 透析患者にHITが発症した場合, 最も理想的な抗トロンビン薬であるargatrobanが本邦では承認されておらず, 今後の課題と考える.

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© 社団法人 日本透析医学会
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