日本透析医学会雑誌
Online ISSN : 1883-082X
Print ISSN : 1340-3451
ISSN-L : 1340-3451
維持血液透析中に顕性C型肝炎が急性発症した1例 -HCV-RNAの塩基配列同定による感染源の特定-
中川 勇人三瀬 直文清水 英樹西 隆博田川 一海多川 斉杉本 徳一郎
著者情報
ジャーナル フリー

2004 年 37 巻 8 号 p. 1659-1663

詳細
抄録

血液透析 (HD) 患者のHCV感染率は高率で, 輸血のほか透析医療行為による感染の可能性がある. 維持透析中にC型肝炎を急性発症したため, 感染源を特定し感染経路を推測し得た症例を報告する.
症例は52歳女性. 半月体形成性腎炎により持続携行式腹膜透析 (CAPD) 導入となり8年を超えたため, 2001年8月より計画的にHDに移行し間歌的腹腔洗浄のみ行っていた. 2002年1月GOT 894U/L, GPT 1,254U/Lと著しい肝機能障害を認め, 精査加療目的に入院. HCV抗体が陰性で, HCV-RNAが陽性であったため急性C型肝炎と診断した. トランスアミナーゼは順調に低下したが, T-Bilが第9病日となっても10.3mg/dLと上昇を続けたため強力ネオミノファーゲンの投与を行い退院した.
本症例では透析医療行為による感染を疑い, 2001年9月-2002年1月に当院でHDを行ったHCV抗体陽性患者全員のHCV genotypeを検索し, 本症例と同じ1bの患者9例を抽出した. 次いで本症例を含めた10例で, HCV RNA E1領域中の400の塩基配列を調査した. その結果, 2001年12月に5回の透析を本例と同一日に行った1患者の塩基配列が, 本症例と98.8%の相同性をもっており, 感染源であると判明した. 5回のうち, 同一ベッドで前後して透析を行ったことはなく, 5回とも本例は感染源例より約1時間遅れて透析を開始し終了していた. また, 5回のうち1回で透析ベッドが隣り合っていた. 明らかな血液の汚染事故はなかったので, その際に行われた透析手技を再度見直したところ, 穿刺時および終了・返血時の手技, さらに注射薬のポート注入などの際に手袋やアルコール綿の汚染を介して発生した可能性が考えられた. そのためそれらに対して具体的な防御策を検討し実行した.
本例は血液透析患者におけるHCV感染防御手段を検討し, 今後の感染を防ぐために非常に重要な症例であった.

著者関連情報
© 社団法人 日本透析医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top