わが国での透析患者は年々増加し, また高齢化の一途をたどっており, 多数の合併症を有する患者が増えていることが予想される. 透析患者が腹痛を訴えた場合, 消化器疾患が原因であることが多いが, 中には腎自然破裂や大動脈解離の場合もあり, 早急な判断が必要となることがある. 今回, 大腸憩室炎の経過中に腎自然破裂を合併し, 腹痛と腹部腫瘤の鑑別に苦慮した症例を経験した. 症例は64歳男性. 透析歴12年. 2002年大腸憩室炎の既往あり. 2003年2月7日血液透析後に下血が出現. 貧血の進行と黒褐色便, 腹痛を認めたため大腸憩室炎など消化管病変が疑われた. その後腹痛の増強と, 新たに左側腹部に圧痛を伴う腫瘤を触知するようになり, 貧血もさらに進行しショック状態となったため当院入院となった. 腹部CT検査と左腎動脈造影検査の結果, 左腎破裂との診断にて左腎動脈塞栓術を施行し, 輸血を行ったところ次第に全身状態は改善した. また入院時便潜血反応陽性であり, 消化管出血の精査を行ったところ, 腸管内に多発する憩室と凝血塊を認め, 経過から大腸憩室炎による消化管出血が疑われた. 絶食・安静にて消化管出血と腹痛は改善している. 透析患者が腹痛を訴えた場合, 頻度的には虚血性腸炎や大腸憩室炎など消化管疾患であることが多いが, このほか, 大動脈解離や腎破裂など消化管以外の疾患の鑑別もすることが重要である.