2006 年 39 巻 8 号 p. 1299-1304
透析患者において, 尿毒症環境や栄養上の問題に関連する易感染性, 動脈硬化を基盤とした血流不全などを背景にした器質的な下部消化管疾患の合併が大きな問題となる場合がある.
症例は69歳女性. 25歳時, 子宮外妊娠で手術を受けた. 約22年の糖尿病歴があり, 平成7年10月から末期腎不全に対して維持透析中であった. 平成16年6月下旬から左股関節の運動痛が出現し, 次第に両側性になり歩行不能となった. 37℃台の発熱が持続し, 血液検査上, 白血球25,600/μL, CRP30mg/dLと上昇を認め, 同年7月12日当科へ紹介入院した. 骨盤部MRI, 単純CTでは股関節には異常を認めず, 直腸壁の全周性の著しい肥厚を認めた. 大腸内視鏡所見では, 肛門から4-7cmの部位の直腸粘膜に限局して凝血塊を伴うびらん, 潰瘍を認めた. 絶食による腸管安静と抗生剤の投与によって直腸炎の症状・内視鏡所見・CT所見は改善したが, その後3か月間に2回再燃した. 長期間の腸管安静 (21日間絶食後, 54日間流動食) と抗生剤投与 (45日間) を行った結果, その後寛解を維持できた.
直腸炎の成立機序を明確にするのは困難であったが, 長期にわたる腸管の安静と抗生剤の使用を行い, 良好な結果を得ることができた.