2017 年 37 巻 4 号 p. 295-306
心筋梗塞例での致死性不整脈として,持続性心室頻拍と心室細動が知られているが,その病態生理は異なる.虚血急性期においては,虚血再灌流時の細動発生率が特に高い.虚血時に細胞間質に蓄積されたK+イオンや代謝産物が,再灌流により一気にwashoutされ,電気的に不活性化されていた虚血心筋に,数秒以内に不均一かつ遅延した電気的興奮が回復してくるのと一致して細動が発生する.先行する虚血時間と細動発生率には関連性があり,30分をピークに低下する.その理由は,30分以後,心筋が不可逆的な障害を受け,再灌流時の回復が見られないことによる.一方,解剖学的に梗塞巣が完成する亜急性期(7日目モデル)には,心室頻拍が広範囲梗塞巣での残存心筋内のいわゆるordered reentryであるのに対して,心室細動の発症にはそうした解剖学的基質を要さず,一過性虚血や交感神経緊張に伴う,局所的不応期不均一性によるrandom reentryであることが示された.梗塞部残存心筋の不応期が延長しているなかで,特に梗塞辺縁部での一過性虚血やdenervation supersensitivity領域での交感神経緊張亢進による著明な不応期短縮が細動の誘因となることが示された.