複数の裁判例検索システムを用い,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA),緑膿菌等に対する感染の予防や感染後の対応に関する裁判例83例を抽出し,解析した.
患者背景としては術後患者が多く,転帰については死亡例が多かった.原因菌については,過去20年(1995~2014年)について見れば,MRSAが最も多かったが,緑膿菌については多剤耐性緑膿菌(MDRP)による死亡例が問題となっていた.「診療ガイドライン」,「SIRS」,「グラム染色」という用語は,年代を追うごとに判決文に引用されることが多くなっていた.感染の予防と感染後の対応とを比較すると,前者は過失が否定され易いが,後者はそのように言えなかった.医療機関としての感染予防策については,院内感染防止対策マニュアルの整備や見直し,職員研修を重要視する裁判例があった.感染後の対応については,血液培養検査に加え,抗菌薬の選択が争点となっていた.
これらの結果から,まず,術前,MRSA・MDRP検出時,死亡後における患者や家族への説明が重要と考えられた.また,診療ガイドラインに従うかどうかはともかく,診療ガイドラインを意識して,感染の予防や感染後の対応を行う必要があると考えられた.さらに,医療機関としての感染予防策については,具体的な対応内容の書式化が重要であると考えられ,感染後の対応については,グラム染色も重要であると考えられた.