抄録
特別養護老人ホーム内の各種細菌による環境汚染状況および入所者の保菌状況について疫学的調査を行った. 検出頻度の高かったブドウ球菌に注目し, 主に寝たきり老人が保菌者となっていたMethicillin resistant S. aureus (MRSA) について生物学的性状と薬剤感受性パターンによる型別に加えて, パルスフィールド・ゲル電気泳動法 (PFGE) を用いた染色体DNAの制限酵素切断片の多型 (restriction fragmentlength polymorphism: RFLP) 解析によるgenotypingを行い, ホーム内での生息状況に関する詳細な情報収集と実態把握を試みた. その結果, ホーム2階から検出されたMRSAはすべて同一のDNA切断パターンを示し, 入所者間の交叉拡散の可能性が疑われた.3階からは複数パターンのMRSAが検出され, 2階と3階で重複して検出された菌はなかった. MRSAは保菌状態となっている老人によってホーム内に持ち込まれ, 主に介護者や医療従事者等を介してホーム内での拡散が起こっている可能性が示唆された.