Japanese Journal of Endourology
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特集3:泌尿器内視鏡手術のリスクマネージメント
レジリエンス・エンジニアリング理論の医療安全への適用可能性について
中島 和江
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2017 年 30 巻 1 号 p. 54-60

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抄録

 外科手術・治療の進歩は目覚ましく,患者への侵襲度の低減,生命予後やQOLの向上等に寄与している一方で,治療手技の高難度化,高齢で併存疾患を有する患者の増加等は,医療安全上の脅威となっている.これまでの医療安全は,有害事象を減らすことを目的として,「失敗事例」を学習の対象とし,特定された原因に対して個別の安全対策を講じてきた.近年,新しい医療安全へのアプローチとして注目されているレジリエンス・エンジニアリングは,複雑適応系である医療システムが,変動し続ける環境において,限られたリソースのもとで柔軟に対応できているメカニズムを解明し,またそのレジリエンス特性(柔軟性や適応力)を利用し,「うまくいくこと」を増やそうとするものである.

 本理論では,失敗事例ではなく,普段の仕事がどのように行われているのかについて理解することを中心的課題として扱う.また業務プロセスについては,タスクを時間軸でシーケンシャルに説明するのではなく,ノンリニアな視点でさまざまな機能が相互作用を通じて変動していると捉える.さらに,システムを広く見て,システムを構成する人々の行動(ミクロの視点)とシステム全体(チームや組織等)の挙動(マクロの視点)を分析する.手術チームや病院組織がどのようにパフォーマンスしているのか,レジリエントなシステムはどのような能力を発揮しているのか等を明らかにすることができれば,動的で複雑なシステムを安定的かつ柔軟に制御することが可能になると期待される.

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© 2017 日本泌尿器内視鏡学会
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