実地の臨床検査に重心動揺測定装置が導入されてから約20年がたつが, その結果は芳しいものではなく, 神経科医および神経耳科医は, これを特に有用なものと考えていない。このような臨床的重心動揺検査の危機を前にして, 基礎的な重心動揺検査による重要な発見, すなわち起立姿勢は我我が「高位姿勢制御系」と呼ぶ特別な神経生理機構全体によって制御されるという発見が行われたことを思い起こす必要があろう。そうすれば必然的に高位姿勢制御系に関係した症状の解明を助けるのは臨床的重心動揺検査をおいて他にない, という結論に達する。基礎的な重心動揺検査がなければ, 高位姿勢制御系について, その存在さえ知り得なかったのである。福田 精氏が直観したように, 医師達はこれらの症状を日常的に見ている (福田1957年) 。