日本食品工学会誌
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技術論文
微細水滴を含む過熱水蒸気を用いた食品加熱システムのノズル噴流中における水蒸気/水比の測定
五月女 格小笠原 幸雄名達 義剛竹中 真紀子岡留 博司五十部 誠一郎
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2009 年 10 巻 3 号 p. 163-173

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抄録

過熱水蒸気は凝縮潜熱による高い熱伝達効率や低酸素雰囲気による食品の酸化を防止した加熱が行えることなど様々な利点を有することから,これまで調理加工,殺菌,抽出および乾燥など,様々な食品加工へ応用が研究されてきた.過熱水蒸気は被加熱物を乾燥させる性質をもつが,この性質は過熱水蒸気を調理や青果物のブランチングに用いる際には食材の水分を最適に保つことを困難にする一因であった.著者らは過熱水蒸気による加熱中の食材の水分を制御するため,微細な熱水滴を食材に噴霧しつつ過熱水蒸気により食品加熱を行う装置を開発した.この装置をジャガイモのブランチングに用いたところ,一般的なブランチング方法である熱水加熱で問題になる吸水ならびに成分の流出が解決され,かつ乾燥による歩留り低下も抑制されることが明らかになった.この装置は様々な食品の調理加工,ブランチングなどに応用可能であると期待されるが,最適な水分は食品および加工目的によって異なると考えられることから,この装置のさらなる応用のためには過熱水蒸気および水滴の噴霧量を制御する技術,またその基礎となる過熱水蒸気および水滴の流量を測定する技術が必要といえる.通常は水蒸気の湿り度は絞り熱量計および蒸気表から求めることができるが,本装置においては水滴量が多いことなどの理由から絞り熱量計の適用は困難と考えられた.以上の理由から本研究においては開発された装置のノズルにおける水蒸気および水の流量を簡便に測定する手法を提案し,さらに装置の運転条件が水蒸気および水流量に及ぼす影響について検討することを目的とした.
開発された装置においては,水蒸気発生器はアルミニウム製プレート(850×400×25 mm (WDH))に長さ10 m,内径4 mmの細管が電熱線とともに埋め込まれた構造を有しており,細管の一端から水を圧送し高圧下で沸騰させ,細管の他端に接続されたノズルから水蒸気と水を加熱室内に噴霧する.本装置のノズル内部における水蒸気/水比を知る方法として理論的に最も単純で確実なものは,水蒸気発生器の消費電力と表面から放出される熱量の差を供給された水の比エンタルピに加え,蒸気表から比を算出する方法であるといえる.しかしながらこの方法においては水蒸気発生器の放出熱量を正確に測定するための高価な熱流束センサが多数必要となり,さらに装置が大型化するにしたがい必要なセンサ数が増加するという問題がある.代替の測定方法として,本研究ではノズル内圧および温度から水蒸気流量を計算し,装置に供給される水量との差を水滴の流量として計算する方法を考案した.この方法では装置の規模に関わらずノズル内圧および温度のみを測定すればよいため非常に簡便であるといえるが,水蒸気と水が混在してノズルから流出する場合においては正確に水蒸気流量を計算することが可能であるか不明である.この方法にて水蒸気および水流量が正しく測定できることが示されれば,費用などの面において優れた測定方法といえることから,前述の熱収支を用いる方法と測定結果を比較することによりその精度について検討した.
装置にはタンクから定量ポンプを用いて水を供給し,水の流量は0.3~1.3 g/sとした.試験に用いた装置においては,水蒸気発生装置は加熱室内に設置されており,消費されるエネルギの一部が水蒸気および熱水の生成に使用され,残りのエネルギ(前述の熱損失と同値)が加熱室内の水蒸気の保温に使用される.水蒸気発生装置の出力は加熱室内の温度を115℃に保つよう制御した.装置を運転しノズル内圧および温度,水蒸気発生装置の消費電力ならびに水蒸気発生装置の上下面各30箇所,側面各5箇所,計80箇所における熱流束を測定した.水蒸気発生装置表面からの熱損失は,上下面においては測定された熱流束値をAkimaの方法により2次元補間した後,面に対して数値積分することにより求め,各側面については長手方向に5等分した中央の熱流束値と表面積の積から算出した.ノズル口径は1.3,1.5および1.9 mmの3種について試験を行った.
2つの方法により測定された水蒸気/水の流量比は良く一致し(Fig. 7),ノズル内圧および温度測定による方法は開発した加熱装置を様々な食品加工に応用する上で有効な水蒸気および水流量の測定方法であると判断された.本研究で得られた結果においてはノズルにおける水の流量の質量比は最も多い場合で供給水量の約25%であったが,これは体積比にすると水蒸気流量の1/5000以下となることから,水蒸気流量計算に水滴の存在が及ぼす影響は極めて小さかったと考えられる.実験に用いた装置においては,供給水量が少なくノズル内圧が0.188 MPa以下の場合においてはノズルからは水蒸気のみが亜音速で流出し,供給水量を増加させノズル内圧が0.188 MPaを越えるとノズルから流出する水蒸気の速度は音速となり水滴がともに噴霧された.実験に用いた装置においては加熱室内の水蒸気を大気圧で115℃と過熱状態に制御するため,供給された水は全て水蒸気として加熱室内に供給されるべきである.しかしながら,水蒸気流量は水蒸気流速およびノズルのど部における水蒸気密度の積で与えられるため,供給水量が増加しノズルにおける水蒸気流速が音速に達すると,ノズル内圧の増加による水蒸気流量の増加が小さくなり,供給された水の一部は水蒸気として流れる事ができず水滴としてノズルから噴霧されたと考えられる.

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© 2009 一般社団法人 日本食品工学会
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