日本食品工学会誌
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原著論文
種々の賦形剤を用いた乳化d-リモネン噴霧乾燥粉末からのd-リモネンの徐放挙動
高重 至成ヘルマワン アリアント四日 洋和安達 修二吉井 英文
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2017 年 18 巻 1 号 p. 53-58

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抄録

フレーバーは食品のおいしさに深くかかわっているため,近年,種々の粉末香料が用いられている.噴霧乾燥による粉末香料の作製において,噴霧乾燥時のフレーバーおよび,粉末回収率に加え,粉末貯蔵時のフレーバーの酸化安定性や粉末からのフレーバー徐放性などが重要となる.フレーバーの徐放挙動は,保存環境の温度,湿度に大きく依存することがわかっている.また,粉末の賦形剤によっても異なると考えられているが詳細な研究は行われていない.よって,本研究では乳化d-リモネン噴霧乾燥粉末中のd-リモネンの徐放挙動に及ぼす賦形剤の影響を明らかにすることを目的として,ショ糖(Suc),α-ラクトース(Lac),マルトデキストリン(MD,Dextrose Equivalent(DE)=25,19)を賦形剤として用いて乳化d-リモネン噴霧乾燥粉末を作製し,d-リモネンの徐放挙動を恒温恒湿条件下で検討した.

蒸留水に賦形剤としてSuc,Lac,MD(DE=25),MD(DE=19),乳化剤として乳蛋白質加水分解物(エマルアップ,森永乳業),抗酸化剤としてアスコルビン酸ナトリウムを加えて溶解した後,d-リモネンと中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール(アクターM-2,理研ビタミン)を添加し,乳化溶液を攪拌作製した.乳化液を,噴霧乾燥機(L-8型,大川原化工機製)を用いて乾燥し,d-リモネン噴霧乾燥粉末を調製した.作製した粉末は,目開き篩径106 μmと150μmで粉末を集め,徐放試験に供した.ガラス製試料瓶に噴霧乾燥粉末を約0.1 g入れ,各種飽和塩によって50℃の相対湿度(RH)44,58,68,75,83%に調整したデシケータ内に静置した.所定時間毎に試料を採取し,粉末中のd-リモネン量をガスクロマトグラフィ(GC-2014,島津製作所)で測定した.

粉末からのd-リモネンの徐放機構が拡散挙動であるとしてAvrami式の形状係数n=0.56の値を用いて徐放速度を相関した。賦形剤にMD(DE=25,19)を用いた場合,湿度が大きくなるにつれて徐放速度も大きくなり,湿度の増大と徐放速度には相関がみられた.賦形剤にLacを用いた場合,44% RHと83% RHでは急激に徐放し,8日後では8割の徐放が観察されたのに対し,58,68,75% RHではおよそ半分の徐放にとどまり,湿度と徐放速度には相関がみられなかった.同様に,賦形剤にSucを用いた場合も,湿度と徐放速度の相関がみられなかった.これらd-リモネンの徐放速度は賦形剤の種類に大きく依存した.

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© 2017 一般社団法人 日本食品工学会
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