日本食品工学会誌
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バナナ葉から抽出したワックスの基本特性―プランテーション残渣の有効利用―
柳田 高志清水 直人木村 俊範
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2005 年 6 巻 1 号 p. 29-35

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抄録

バナナは熱帯プランテーションなどで大量に生産されている栽培植物である.現地では果実が収穫された後の葉や茎 (偽茎) は, 切り倒され土に返されるか, ゴミとして処理されており, その総量は年間約10億トンに達する.バナナの主要生産国は開発途上にあり, これらプランテーション残渣をバイオマス資源とみなし, 有効に利用することは重要な課題となっている.
これまで, バナナの茎・葉からバイオガスやパルプを生産する目的で行われた報告はあるが, その他の利用に関する研究は未だ少ない.われわれは, バナナ葉の表面にワックスが存在することに着目し, バナナ葉ワックスとしての利用の可能性について検討した.
そこで本実験では, バナナ葉からワックスを抽出し, その収率を比較した.バナナ葉ワックスの応用を目指し, 融点, 色, 溶媒耐性, 成分などの基本特性を明らかにした.
Musa liukiuensis, M. acuminata, M. chiliocarpaの葉を供試し, ヘキサン加熱還流法でワックス抽出を行った.バナナの葉の含水率は84.9から86.0%であった.ワックスの収率は, 乾燥重量に対してM.liukiuensisが0.58%, M.acuminataカミ1.05%, M.chiliocarpaカミ1.41%であった.市販の天然ワックスの収率は, キャンデリラワックスが乾燥葉に対して1.5から2.5%, ライスワックスが米ぬかに対して0.4%であり, バナナの葉はワックス生産を考えた場合に大変興味深い素材であることが示された.
ワックスの物性を測定するために, 示差走査熱量計 (DSC) により天然ワックスの融点測定を行った.一般的にDSC曲線のピーク温度は融点として知られており, バナナ葉ワックス3種類M. liukiuensis, M. acuminata, M. chiliocarpaは, それぞれピーク温度88.8, 86.6, 89.1℃を示し, そのDSC曲線はシャープな単一ピークであった.カルナウバワックスは, 市販されている天然ワックスの中で最も融点の高いワックスとして知られるが, その値は85.5℃であった.このことから, バナナ葉ワックスは高融点ワックスであり, 耐熱性を有していることが明らかとなった.
ワックスの溶媒に対する耐性を5種類の溶媒系を用いて検討した.溶媒は, 極性の低いものから高いものまで調整して, 順次ワックスを懸濁し, その溶解度で評価した.バナナ葉ワックスは, 市販の天然ワックスよりも溶媒に対して安定していることが明らかとなった.
L*a*b*表色系でワックスの色を評価した.ロウソク等のワックス製品は, 装飾性をより高めるために染色あるいは色づけされるが, 工業原料としてのワックスの場合は, 無色もしくは白色であることが好ましい.バナナ葉ワックスは, 白色もしくはライトグレーであった.明度L*は72.23から86.08で, 市販の天然ワックスの中で最も高い値を示した.バナナ葉ワックスの中でもM. acuminataのワックスはとくに白いことがわかり, モクロウに含まれるアピゲニンのようなフラボノイドやカルナウバワックスおよびキャンデリラワックスに含まれる樹脂などの着色成分が混在していないように思われた.このためバナナ葉M. acuminataワックスは, 生産の工程に脱色を必要としないため, 他の天然ワックスと比較して精製段階に利点が生まれると思われた.
成分分析のために, バナナ葉ワックスをけん化処理し, 脂肪酸とアルコールに分離した後, ガスクロマトグラフィーで分析した.バナナ葉ワックスの構成脂肪酸の炭素鎖数はC14からC30の範囲にあり, C22 (24.31%) が主要脂肪酸であった.一方, 構成アルコールはC16からC30の範囲にあり, C28 (23.78%) とC30 (21.87%) が主要アルコールであった.
以上, バナナ葉からワックスを抽出し, その基本的な特性が明らかになった.高融点や安定性の優れた特性を有するバナナ葉ワックスは, コーティング剤などの工業原料としての可能性を示した.このことは, バナナ葉から天然ワックスを生産することが未利用資源の有効利用技術のひとつとして例示できたと考える.

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