行き詰まっていたWTO農業交渉は2004年8月に枠組み合意が成り, モダリテイ合意, 協定締結に向けて動き始めた.しかし農業交渉の3つの論点―市場アクセス, 国内助成, 輸出競争―のいずれにおいても主要国の利害が多岐に分かれており, また, 論点により利害関係の構図が異なっている.このような利害関係の錯綜の故に, WTO枠組み合意は, 利害関係国 (グループ) の主張を矛盾しないように組み合わせたにとどまり, 対立点の解決を今後の交渉に委ねて, 先送りに近い形になっている.2005年12月香港閣僚会議までにあまりにも多くの交渉事項が残されている.複雑な利害関係以外にも, WTO多角的貿易交渉における価値観の多様化, FTAの急増など交渉の遅延につながる要素がみられる.今後も, 農業交渉の動向から目を離せない状況が続くであろう.