日本食品工学会誌
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食品のガラス状態に関する研究
鈴木 徹
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2007 年 8 巻 2 号 p. 47-58

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抄録

食品工学にとって食品物性の理解と予測が重要であることは述べるまでもないが, 近年発展しつつあるガラス状態の科学はそれら予測, コントロールへの道を拓くと考えられる.しかし, 食品のガラス状態に関する知見は乏しく未知な部分が多い.筆者のグループはそういった食品のガラス状態研究に取り組み, いくばくかの進展がみられた.本解説ではその事例について紹介する.まず実際の食品であるカツオ節, および生体関連物質のガラス転移とガラス状態のエンタルピ緩和減少の実例を示し, その緩和速度がKohlrausch-Williams-Watts (KWW) 式あるいは, Adam-Gibbs (AG) 形式で記述予測することが可能であることを示した.またガラス化のプロセスの特殊例として常温乾式ボールミルによるデンプンのガラス化, およびゼラチンのガラス化コントロール法を紹介する.
さらにガラス化食品のエンタルピ緩和と物性変化との相関の例としてガラス状態デンプンやカツオ節の水分収着特性がエンタルピ緩和と同時に減少することについてふれた.またガラス状食品内での諸反応を検討した例として冷凍マグロ肉の鮮度低下に関わるATP分解自己消化反応がマグロ筋肉のガラス転移温度 (-60~-70℃) 以下では急激にその反応速度が小さくなること, 種々のガラス物質内に埋め込まれた糖―タンパク質問のメイラード反応の進行はガラス状態の分子運動性だけでなくガラス物質と糖―タンパク質問の相互作用に強く依存することを紹介する.さらに食品の凍結時においてみられるガラス転移を理解するために水和タンパク質 (牛血清アルブミンBSA) の低温でのガラス転移の詳細検討結果, また, 糖―リン酸混合溶液の相互作用による異常ガラス転移現象, 凍結スリミのガラス転移温度に及ぼす添加糖の影響などについて解説する.

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