日本食品工学会誌
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種々の含水率のL-アスコルビン酸2-グルコシドの消失および着色の動力学
洪 蘭心木村 幸敬安達 修二
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2008 年 9 巻 3 号 p. 135-141

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抄録

食品成分の変質は一般に好ましくない現象であり, 品質劣化の一因となる.品質劣化の合理的な抑制法の開発には, 質的な変化に関する化学的な解明とともに, 速度論的な知見も必要である.そこで著者らは, 酸化防止剤などとして各種食品に広く使用され, 劣化しやすいことが知られているL-アスコルビン酸 (ビタミンC) の粉末状態での分解と着色について速度論的な検討を行っている.
まず, 種々の含水率に調整したL-アスコルビン酸粉末の60~90℃における分解および着色過程を測定した [4] .いずれの含水率および温度でも分解過程は一次反応速度式で表現できたが, 着色過程は1次速度式が適用できず, 含水率と温度に依存して異なる最大着色度に漸近するように修正したWeibull式で表現した.また, 各過程に対する速度定数の温度依存性はいずれの含水率においてもArrhenius式で整理できた.なお, 保存温度が高く試料の含水率が高いほど最大着色度が大きかった.
次に, L-アスコルビン酸の疎水性誘導体である6-O-パルミトイル-L-アスコルビン酸の消失および着色過程に及ぼす含水率と温度の影響を検討した [8] .消失過程は形状係数が約0.8の単純なWeibull式で表現でき, 着色過程はL-アスコルビン酸と同様に, 含水率と温度に依存して異なる最大着色度に漸近するように修正したWeibull式で表現できた.また, 消失および着色過程に対する速度定数の温度依存性はいずれもArrhenius式で整理できた.さらに, 同じモル比の水を含むL-アスコルビン酸と6-O-パルミトイルーL-アスコルビン酸の着色過程の比較から, 疎水性のパルミトイル基の導入はL-アスコルビン酸の着色を抑制することを示した.
そこで本研究では, L-アスコルビン酸に親水性のグルコース残基を付加したL-アスコルビン酸2-グルコシドの消失および着色過程に対する含水率と温度の影響を検討した.L-アスコルビン酸2-グルコシドの消失過程も単純なWeibull式で表現でき, 速度定数kdと形状係数ndはいずれも保存温度が高いほど, また含水率が高いほど大きかった.L-アスコルビン酸2-グルコシドは, L-アスコルビン酸とグルコースに加水分解されたのち, レアスコルビン酸が他の物質に変化する逐次過程を考え, 各過程が1次反応速度式に従うと仮定して, L-アスコルビン酸量の経時変化を解析した.L-アスコルビン酸2-グルコシドの加水分解過程の速度定数klとレアスコルビン酸2-グルコシドの消失過程の速度定数kdの比較から, レアスコルビン酸2-グルコシドの消失はすべてが上述の逐次的な過程を経るのではなく, L-アスコルビン酸2-グルコシド自体の分解などにより消失する過程も並列的に進行することを示唆した.
L-アスコルビン酸2-グルコシドの500nmにおける吸光度の変化は, レアスコルビン酸および6-O-パルミトイルーレアスコルビン酸と同様に, 最大吸光度Amaxに漸近するように修正したWeibull式で表現できた.Amaxは含水率が高いほど大きく, 保存温度による影響は顕著ではなかった.また, 形状係数ncも温度に依存せずほぼ2.0±0.5であった.速度定数kcは高温ほど大きく, また含水率が高い試料ほど小さかった.
L-アスコルビン酸, 6-O-パルミトイルーL-アスコルビン酸およびL-アスコルビン酸2-グルコシドについて, モル基準で同程度の水 (モル比0.92~1.13) を添加した試料の70℃における着色過程を比較した.レアスコルビン酸2-グルコシドの着色過程はL-アスコルビン酸より遅く, 6-O-パルミトイルーL-アスコルビン酸より速かった.したがって, L-アスコルビン酸へのグルコース残基の導入は着色を抑制するが, その効果はパルミトイル基のそれより弱いことが示された.その理由として, L-アスコルビン酸2-グルコシドが親水的で加水分解されやすく, 生成したレアスコルビン酸が着色しやすいことが考えられる.

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