日本食品微生物学会雑誌
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原著
変敗食品から分離されたArthrinium 属2種の同定と培養性状
柏木 さやか馬場 浩吉田 信一郎宇田川 俊一
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2009 年 26 巻 1 号 p. 16-22

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抄録

変敗食品から分離された糸状不完全菌類Arthrinium 属のカビについて菌種を同定した.また,変敗原因菌であることを確認するために,分離菌株のガス産生能試験および嫌気条件下での生育,耐熱性試験を行った.比較のため,関連の標準菌株と既存の食品・環境由来分離株などを併せて供試した.
1) 2003年,麺つゆの膨張事故品から分離したカビ菌株について,ポテト・キャロット寒天培地およびオートミール寒天培地を用いて,25℃,暗所およびブラックライト照射下で5~20日間培養し,形成された集落,分生子形成細胞,分生子を観察して,Apiospora montagneiArthrinium アナモルフと同定した.また,2002年に変敗したトマト加工品から分離された1菌株も同一種と確認した.
2) 2002年,イチゴジャムに発生した白色の変質部分から分離したカビ菌株について,1)と同様の条件下で培養し,同定を行った結果,Arthrinium phaeospermum であることが判明した.
3) 以上の変敗食品由来株および標準菌株など,Apiospora montagneiArthrinium アナモルフ5菌株,A. phaeospermum 5菌株についてガス産生能および嫌気条件下の生育について試験を行った結果,供試したすべてのArthrinium菌株が使用したパウチ袋(酸素透過率1.49, 48.5および2,500 ml/m3・24 h)中の5%グルコースYM液体培地中で生育し,7~14日間後にはガス(二酸化炭素)を産生し,袋の膨張が観察された.また,PDA培地,アネロパック®ケンキを使用,25℃,7日間培養後の集落形成を調べた結果,Apiospora montagneiArthrinium アナモルフ全5菌株,A. phaeospermum の3菌株について生育が認められた.特に前者では好気状態の約60~70%程度の生育に達した.以上の知見から,食品にしばしば汚染が見られるArthrinium 属菌について,加工包装食品の膨張事故原因となる可能性が示唆された.
4) ガス産生能試験に用いた10菌株について加熱媒体としてリン酸緩衝生理食塩水を用い,TDT試験管法により耐熱性試験を行った.接種源としてポテト・キャロット寒天培地,25℃,ブラックライト照射下で23日間以上培養し,形成された分生子を使用した.耐熱性を示した菌株は,変敗イチゴジャムから分離したA. phaeospermum 1株のみで,90℃,5分間の加熱処理後もわずかに生残した.この結果から,Arthrinium 属菌の胞子耐熱性は個々の菌株レベルの特徴と考えられた.
本研究で得られた知見は,特に加工食品におけるカビ汚染の制御の面で役立つものと思われる.

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© 2009 日本食品微生物学会
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