魚病研究
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外観上正常なサケ, カラフトマス及びサクラマス成熟親魚のAeromonas salmonicida保有状況
サケマス増殖事業におけるせっそう病の疫学的研究―I
野村 哲一吉水 守木村 喬久
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1991 年 26 巻 3 号 p. 139-147

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抄録

 1979年から1990年までの12年間にわたり北海道内の主要なサケマス増殖河川に湖上したサケ, カラフトマス及びサクラマス成熟親魚を対象に, A.salmonicida保有状況を調査し以下の結果を得た。1.供試したサケ9,434尾, カラフトマス3,165尾及びサクラマス2,665尾の雌成熟親魚のそれぞれ13.2%, 4.6%, 1.8%からA.salmonicidaが検出された。2. サケ成熟親魚では調査した28河川中18河川から, カラフトマスでは14河川中9河川から, サクラマスでは10河川中6河川の雌成熟親魚からA.salmonicidaが検出され, A.salmonicidaは津軽海峡から内浦湾までの太平洋沿岸を除く広い地域に分布していると考えられた。3. 石狩川の雌成熟親魚からのA.salmonicidaの検出率は10月上旬から中旬に上昇し, 最高は80%にも達した。これは, 成熟親魚の催熟蓄養尾数が増加することに原因すると考えられた。4.雌成熟親魚の腎臓中のA.salmonicidaの生菌数は105 cfu/g以下であり, 雌成熟親魚にせっそう病による死亡がみられないのは, 腎臓中の生菌数が少なく, 不顕性感染の状態にあるためと考えられた。 5.A.salmonicidaがサケ親魚から検出された河川は, 採卵数が北海道全体の34%に達するサケマス増殖事業の主要な河川であり, 資源造成を目的とした卵の移殖に伴い, A.salmonicidaの分布域がさらに拡大されるおそれがあり, また親魚から卵及び稚魚への伝播の危険性も懸念された。

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