2015 年 50 巻 4 号 p. 115-126
ポット苗による水稲の移植栽培は,移植直後の生育停滞が少なく,茎数の確保が容易とされることから主に寒冷地で行われている.ポット苗のこのような特性は,生育初期の水稲の根を加害するイネミズゾウムシによる被害軽減に有効ではないかと考えた.そこで,圃場およびワグネルポットに移植したポット苗と慣行苗に対してイネミズゾウムシを一定個体数接種し,水稲の生育,収量,茎葉部乾物重,根部乾物重および出液量などを比較した.圃場で栽培した水稲では,イネミズゾウムシ接種によって生育初中期(移植後40~50日間)の茎数は非接種区に比べて低く推移した.非接種区に対する接種区の茎数の比率を比較すると,慣行苗区に比べてポット苗区の比率が高く推移した.また,ポット実験においても,イネミズゾウムシ接種により茎葉部乾物重,根部乾物重および出液量は低下したが,ポット苗区は慣行苗区に比べていずれの値も高い傾向がみられた.しかし,イネミズゾウムシ幼虫による直接的な加害がなくなる移植後50日以降の生育は年次によって異なっており,加害を受けた水稲の茎数が回復する場合は,生育初中期にみられたポット苗によるイネミズゾウムシの加害を軽減する効果は収量にまで反映されなかった.