抄録
近年, 口腔細菌が高齢者の各種全身疾患に影響を及ぼすことが明らかとなり, 口腔ケアの重要性が指摘されている。しかし, 要介護者では, 一般の歯ブラシによる清掃は誤嚥のリスクが高いため, 通常, ガーゼによる清拭などが行われており, その効果は充分とは言い難い。そこで, 日常の介護者が安全かつ容易に行える効果的な口腔ケア法の開発が急務である。特に, 高齢者では, 一般成人と比較して自立度や口腔状態が大きく異なるために, その状況に応じた口腔ケア法の確立が必要とされている。
そこで, 筆者らは, 高齢者の口腔ケアを自立度 (自立, 一部介助, 全介助) と口腔状態 (歯数と義歯の有無) から9つのカテゴリーに分類した「高齢者口腔ケア分類表」の作成を試み, それぞれに対応したオーダーメードの口腔ケア法を考案すべく細菌学的手法を中心に検討を進めている。
本研究は, 予備実験として, 要介護者の口腔ケアを安全かつ効果的に, しかも歯科医療従事者以外でも容易に行えることを目的に開発したシステム (「デント・エラック給吸ブラシ910」) を多数歯を有する要介護高齢者に試みて, 一般の付き添い者等による使用前に, その安全性と効果の詳細な情報を得るために, 今回は, 看護師により行われ, 含漱水中の細菌数の平均値が1/10~1/100に減少した。さらに, 口腔ケアを通して誤嚥とみられる明らかな症状は認められなかったが, 一般的に高齢者では, わずかな誤嚥では全く症状を示さない場合もあり, 今後一層のシミュレーション研究が必要であろう。