図学研究
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円筒アナモルフォーズ図形
―鞘絵について―
穂田 夕子
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2000 年 34 巻 Supplement 号 p. 91-96

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抄録

本研究では、円筒アナモルフォーズ作品と鞘絵における図法分析と作品分析により、それぞれの特性を比較・観察し、円筒アナモルフォーズ図法の図学的特性を明確化した。さらにこの二点の分析に加え、円筒鏡外壁反射の法則と視点移動による正像変化を考慮に入れ、正像の視点位置を正確に決定した数値を設定することで、鞘絵のより正確な図法を提案した。また、ヨーロッパの円筒アナモルフォーズ作品は、日本の文化にどのような影響を与え、日本の独特な文化受容によって鞘絵がどのように変化したのか、日本入の受け入れ方を考察した。結論として、以下の点が挙げられる。鞘絵は、当時の不明確な円筒アナモルフォーズの図法を表面的にしか取り入れていず、かつ鞘の形に合わせた正確な図法に則って制作されたものではないこと力雅測される。鞘絵は、それほど厳密な状況で鑑賞する必要のない遊びの対象としての性格のものと考えられる。円筒アナモルフォーズの鏡がヨーロッパでは断面が正円の円筒鏡なのに対し、日本では断面が楕円の鞘を利用した。ヨーロッパでは歪像の図法的原理が追究されたのに対し、日本の鞘絵は独自の遊びの文化において作り上げた可能性が高い。日本のアナモルフォーズ「鞘絵」は、同じ頃日本で流行した「浮き絵」と同様に、線遠近法的な要素を取り入れつつも、参考にしたヨーロッパの図法自体に検討の余地があったことや、日本独特のあいまいな面を残して描く手法と特殊な形状の鞘を使用することによって、さらに日本独特な図に作り替えられてしまったと考えられる。

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