2006 年 40 巻 3 号 p. 5-14
本研究は, バルダッサーレ・ペルッツィが描いた「プロスペッティーヴァのための習作」に着目し, ルネサンス期イタリアの透視図法の展開過程における一様相を明らかにするものである. 考察手順はつぎの通りである. 1) 「プロスペッティーヴァのための習作」に関するパオラ・M・ポッジの見解を整理し, その先行研究における問題点を明らかにする. 2) 「プロスペッティーヴァのための習作」を具体的に検討し, その作図法を想定する.そして, 以下のような結論が導かれた. ペルッツィによって「プロスペッティーヴァのための習作」で用いられた作図法は, ポッジが指摘したような等比数列的基準にもとついて水平線の間隔が決められていたわけではなく, 半円と対角線を用いることで水平線の間隔が設定されたものである. 15世紀に誕生した《厳密な表現のための方法》としての透視図法は, 16世紀初頭において《それらしく描くための方法》に簡便化したのである.