2004 年 15 巻 1 号 p. 1-12
「不妊の問題」が社会規範によって生じるものであることが指摘されながら、実際の不妊への対処は医学的治療に一元化されている。それは、インペアメントとしての不妊を所与のものとして不問に付してきたからであろう。本稿の目的は、医学的に定義される「不妊症」を構成するものを通して、「不妊症の診断」の意味と「不妊治療」の限界を示すことである。「不妊症」の定義と分類は、社会における不妊の認識を引き写したものであり、定義そのものに社会的条件が埋め込まれている。医学知識にもとづく「不妊症」の診断は、不妊に関して定量的に判定し、妊娠に関して定性的に判定するという二重基準を用いることによって、不妊の程度をランクづけするとともに、原因不明の不妊を「機能性不妊」として病気にカテゴライズしている。系統的な検査による「異常」の加算と治療失敗の累積が、当事者の「産めない身体」という意識を形成していく。