医療事故をめぐって、医療者・医療機関と患者・家族の間で紛争化することは多く、その過程では、当事者が心理的また関係性における傷を負うことが多い。医療事故をめぐって、なぜ紛争が起こり、こじれることが多いのかについて、紛争解決学の視点から考察を試みた。医療事故をめぐる紛争では、両者の間で情報の非対称性があり、異なった判断基準で医療事故か否かの判断や推測をするしかないこと、医療者はリスク論で説明をし、患者や家族は個別性についての説明を求めるという説明枠組みの違い、感情への開かれ方の違いがあり、コミュニケーションの齟齬が生じる。医療事故をめぐっては、当事者双方が恐怖に陥り、相手を攻撃する構造になりやすい。医療事故をめぐる紛争に関する研究と実践においては、当事者それぞれの合理性からの現実とその相互作用を記述する必要があり、保健医療社会学がこの分野に対して貢献していけることは大きいと考える。