シンポジウム「この20年で医療はどう変化したか?―生活モデル/セルフケア/自己決定」は、医療という営みにおいて生活という概念を重視した変化が生じたことを示したと考える。この20年、医学が基準とされる医療という社会的営みに、個人の固有性に応じる仕組みを強化し、人間が自分で自分をケアすることを重視し、かつ、自己決定の重要性を増した変化が生じた。そして、それは同時に、一人ひとりの固有性に呼応する多様なアクションを医療提供者に求め、標準化のベクトルで進む医療政策と相反する複雑な仕組みづくりを要求している。この変化は、看護職が、医療の中で、ケアの受け手との関係というミクロ社会レベルで実現しようとしてきたものと重なる。しかし、わが国における看護学は、生活概念を重視してきたものの、それを自明視したまま経過している。看護学は、保健・医療・社会の知の創造に貢献するような学際研究に参加しなければならない。