2016 年 27 巻 1 号 p. 62-72
本稿において筆者は、公衆衛生におけるヘルスコミュニケーションを通した介入における倫理問題について論じる。まずヘルスコミュニケーションという用語の出現を1980年以降のプライマリヘルスケアやヘルスプロモーションのオタワ憲章の時期に求め、それ以降増加傾向があることを指摘した。コミュニケーションを介した公衆衛生活動のレパートリーについて紹介した後に、この活動領域における規範的倫理の項目11項目に指摘した。また、それに関連する5項目の倫理的関与の領域を指摘した。このことから構成されるマトリクスを提示して、規範的倫理の項目の分布について理解することの意義を提示した。終章においてヘルスケアにたずさわる人たちが抱く価値自由で中立的な希望とは裏腹に、現実の公衆衛生政策の現場にはさまざまな価値負荷=価値が介入することを、いくつかの実例をもって示した。そして、価値負荷するヘルスコミュニケーションの現場に、医療社会学者が関与してゆく可能性を示唆した。