昭和学士会雑誌
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原著
一過性全健忘の病態機序
―12例の画像所見からの検討―
水間 啓太矢野 怜村上 秀友河村 満山岸 慶子栗城 綾子
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2015 年 75 巻 2 号 p. 191-197

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抄録

一過性全健忘(Transient Global Amnesia: TGA)は急性発症の前向性健忘と逆向性健忘を主徴とし,見当識や自己認識は比較的保たれる疾患である.近年,TGA症例は頭部MRI拡散強調画像にて海馬CA1領域の異常を呈することが報告されているが,発症機序は不明である.今回われわれはTGA患者12症例の画像所見を検討し,病態について考察した.2009年1月から2014年7月までに昭和大学病院および関連病院にTGAの診断で入院した患者を対象とした.頭部MRI拡散強調画像を撮像した患者のMRI所見を発症からの経過時間(発症から24時間未満,24時間以上72時間未満,72時間以降)ごとに検討した.TGAの診断で入院した33症例のうち頭部MRIでの検討を行えた12例について検討した.頭部MRI拡散強調画像で海馬CA1領域の高信号域を発症から24時間未満に撮像した8例のうち1例(左側病変),発症24時間以上72時間未満に撮像した10例のうち8例(左側病変3例,右側病変2例,両側病変3例),72時間以降に撮像した9例のうち1例(右側病変)で認めた.経時的に2回以上頭部MRIを撮像しえた7例では全例で72時間以降に病変の消失を認めた.病変側の相違による臨床症状の違いはみられなかった.TGAは海馬CA1領域が発症および一連の症状に関与し,左右どちらの病変でも臨床症状に相違はない.TGAを診断するための頭部MRI検査は発症から24時間以上72時間未満での評価が特に検出頻度が高い.TGAの病態について,画像所見からは局所の細胞障害性浮腫が病態に関与している可能性があり,画像所見の経時的な変化より皮質拡延性抑制(Cortical Spreading Depression: CSD)の関与が示唆された.

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